【吉田酒店の酒蔵探訪記】Fattoria AL FIORE(宮城・川崎町)

10月30日、宮城県川崎町のワイナリー、Fattoria AL FIORE(ファットリア アルフィオーレ)さんを訪問させていただきました。2014年に川崎町安達の耕作放棄地を開墾し、ブドウを育て、ワインを造られています。

“Fattoria”とはイタリア語で農場を意味し、『AL FIORE』とは代表である目黒浩敬さんが2002年に仙台市内に開いたイタリアンレストランの名前です。『一輪の花』を意味する『AL FIORE』という言葉には、“みなさんを魅了する一輪の花が、やがて種をこぼし、お花畑のように多くの人々の幸せへと広がるように”という願いが込められております。

目黒さんのワインを飲む機会は今まで何度かありましたが、ワイナリーに行くのは初めてのことで、スタッフ一同少し緊張ぎみで訪問させていただきました。
会社のある太白区からは車で30分ほど。旧支倉小学校の体育館を改装したワイナリーです。その隣には校舎を改装した『イーレ!はせくら王国』という、直売所やレストランなどが合わさった複合交流施設があります。

ワイナリーの外観は体育館そのものですが、入り口の暖簾をくぐると別世界。温かみのある雰囲気のエントランスがあり、こちらでワインの試飲や購入をすることができます。実際にお酒を造っているスタッフの方たちと、会話しながらワインを選べるのは素敵なことですね。

いざ、ワイナリーの中へ…

心臓部である醸造スペースは、リノベーションされた体育館のフロア部分です。ひんやりとした空気と、どこか懐かしい雰囲気の醸造スペースには、様々な形、素材、大きさの発酵・貯蔵容器が並んでいます。ここで、目黒さんからワイン造りの思いを聞かせていただきました。
アルフィオーレさんのワイン造りでは、ブドウについている野生酵母のみで発酵を行います。潰したブドウの果汁に含まれる糖分を栄養として、果皮などについている酵母が働き、果汁をアルコールに変えてワインになっていくのです。

「ただそれだけですよ。発酵の原理はいたってシンプルです。」

優しく、穏やかなトーンで目黒さんはそう話します。

“ワインを醸造する”というよりは、“酵母が働きやすいように手助けをしています”という印象を受けました。
酵母は生き物です。常に酵母の状態をよく見て、わずかなメッセージを逃さないように耳を傾ける。それぞれのブドウ、酵母たちが、本来進みたい方向から外れたワインにはしたくない、という目黒さんたちの思いを感じます。私たちにとっては“ただそれだけ”という言葉では表せない出来事が、アルフィオーレさんでは日々起きているのです。

そして驚きだったのは、理想のワインを造るということではなく、その年に自分たちで収穫したブドウを見て、味わってから、どのようなワインにしていくかを決めているということです。このことが本当の意味でのテロワールやヴィンテージの表現なのだと教えていただきました。もちろん造り手さんによって考え方は様々で、培養酵母や発酵を促すために乳酸菌などを添加するワイナリーもあります。しかし、アルフィオーレさんでは醸造中に一切の添加物を加えません。

ワイン造りには全ての工程で人の手が介在します。その工程がシンプルであればあるほど、毎日の作業の丁寧さや工夫、ブドウに対する思いがワインに反映されてくるのです。

醸造スペースの中は特に温度管理などしておらず、機械や設備を使って強制的に発酵温度を変えることもありません。酵母の働き具合をみてワインを冷蔵室へ移動させたり、気温が低く初期の発酵が難しそうなときには、パネルヒーターで館内を少し暖めたりする程度です。
温度管理をしなくても、9月から10月の醸造スペース内の気温は23℃くらいに保たれます。自然と収穫後の発酵に適した温度になるのだそうです。

酸化防止剤を一切添加しないため、醸造の各工程でワインと酸素をなるべく触れさせないようにしています。“ワインと酵母にかかる負担をいかに少なくするか”。仕事の一つ一つにきちんとした理由があることを教えていただきました。

仕込みのときは、ブドウを潰しすぎないようにしています。潰しすぎると、強すぎる味わいが抽出されてしまいエグみのように感じてしまうそうです。
マセレーションのときも櫂棒は使わずに、手で果房をやさしく押し込みながら行います。手作業で行うルモンタージュ(発酵中の液体の循環作業)は、まるで目黒シェフが、丁寧にコンソメスープを作っているような印象です。

酵母が健全に働き、醗酵するためには酸素が必要ですが、“酵母が働きやすい環境の中で、ネガティブな酸化を限りなく少なくする”醸造工程の工夫だけでなく、酵母への愛情を感じます。

ワインを別の容器に移すときも電動のポンプなどは使わずに重力移動で行います。フォークリフトを使って高い位置から自然の流れをつくり移動させるそうです。この理由も酵母への負担と酸化を少なくするためです。

こちらは「アンフォラ」というスペイン製の素焼きの甕です。ワインの醗酵や貯蔵に使われます。素材が土なので甕自体が微量の酸素を通し、タンニンが丸くなり雑味を抑えられます。ただ、アンフォラだけで仕込んだワインには酸化した風味が強く出てしまうそうです。味わいを確認しながら、ステンレスタンクで仕込んだ果汁や、木樽で仕込んだ果汁と一緒に混ぜ合わせてからボトリングします。

補糖や補酸ももちろん行いません。甘味や苦み、酸味などを整えたいときは、ブドウ自身が持っている要素を付け足していきます。
様々な大きさや素材の容器を使う、種や皮と一緒に発酵させる、茎を加える…。別々に仕込んだ果汁を調味料やスパイスのように使って、味わいに輪郭や風味を加え、バランスを整えていくのだそうです。

体育館の踊り場では、山形県天童市で採れたマスカットベーリーAをアパッシメント(影干し)している途中でした。

こちらは南陽市のネオマスカットです。フランスのジュラ地方のように、藁の上で干されています。このブドウたちがボトリングされるのも楽しみです。

川崎町から広がるサスティナビリティ

広々としたセラーには、ボトリングされたワインがずらりと並んでいます。

中では、目黒さんの奥様の礼奈さんがワインにラベルを貼っておりました。“大地から芽生え、一輪の花を咲かせた後に種を落とす”という、生命の循環のイメージをしたラベルで、デザインそのものが『AL FIORE』を表現しています。
ラベルに使われている和紙も川崎町で作られており、その和紙の原料の楮(こうぞ)も川崎町で育てられているそうです。

レストランから始まったアルフィオーレさんの活動は、現在、ワイン造りを通して仲間たちの活動を応援できる存在でありたいと考えております。
2014年に最初の畑を開墾した川崎町安達の周辺は、耕作放棄と過疎化が進んでいました。ワインを通して繋がった志を持った人たちと共に集い、造りだし、喜びを分かちあう状況をつくることが「地域に根付く」ということだと話しております。それは継続的で、環境に負荷をかけずに、循環していくものでなければなりません。アルフィオーレさんが造るワインには、地域や仲間との繋がりを大切にした、関わった人たちの想いが込められています。

人を本当に幸せにする「美味しさ」とは

ワインは世界中に存在しますが同じものは一つとしてありません。ブドウの品種や育てられた地域が一緒でも、色や香り、味わいに違いが出ます。なぜ、そんなにもたくさんの違いが出るのでしょうか?
それは“人がワイン造る”から。今回のアルフィオーレさんへの訪問でそう感じました。「ワインは人が造るものではない」という考えももちろんありますが、「人が介在しないとワインはできない」ということも事実です。人が介在(手助け)して造られるからこそ、ブドウを育てた人の思いや仕込む人の思いが反映され、違いが生まれるのです。そこも、私たちを夢中にさせてくれる魅力の一つなのだと感じました。ぜひ多くの方に飲んでいただき、伝えていきたいと思います。

Fattoria AL FIOREの皆様、貴重な経験をありがとうございました。


Fattoria AL FIORE

〒989ー1507
宮城県柴田郡川崎町支倉塩沢9

TEL:022ー487ー6896
FAX:022ー774ー7046
http://www.fattoriaalfiore.com

仙台駅から、車で約40分。
山形自動車道、宮城川崎ICから車で約15分。