【吉田酒店の酒蔵探訪記】南三陸ワイナリー(宮城・南三陸町)

海と山に囲まれた町の創造拠点

宮城県の北東部、太平洋に面する南三陸町は、リアス式海岸の景観が美しい漁業の町。
カキや銀鮭などの養殖も盛んで、その周りは山に囲まれている海と山が一体となった地域です。

2011年の東日本大震災では、特に大きな被害を受けた地域の一つでもあります。

旧町防災対策庁舎

南三陸ワイナリーは2020年10月5日にオープンした、宮城県では6ヵ所目のワイナリーです。

もとは水産加工場だった建物を改修し、醸造施設・ショップ・海を望む高台のテラスが建てられました。

目の前には志津川湾、少し歩けば海水浴場が広がる『海の見えるワイナリー』です。

南三陸町のワイン造りと町づくり  

ワイナリーの代表である佐々木さんに、醸造施設を案内していただきます。

山形県の出身の佐々木さんは、静岡県の楽器メーカーで商品の企画開発に携わっていました。
震災がきっかけでボランティアとして三陸に通い、その後2014年に仙台へ移住します。移住後の仕事の中で『神の雫』の原作者である、亜樹直さんとワイングラスを作成する企画があり、ワインの魅力と可能性を感じるようになりました。
作成したワイングラスはペアで購入されることが多く、「ワインは誰かと一緒に楽しむためのもの、そして食事と一緒にあるもの」と考えます。

それからは、ワイン関係者との交流も増え、通っていた秋保ワイナリーで『南三陸ワインプロジェクト』の取り組みを知り、メンバーとなったそうです。

世界中に六次産業化の発信拠点として、地域を元気にしているワイナリーがたくさんあります。
南三陸ワイナリーも”この町で醸造したワインをきっかけに、南三陸町の人や地域が繋がり、新たな味わいと賑わいを生み出す拠点となること”を目標としています。

「ワインはブドウだけで造るお酒なので、その地域で育てられたブドウの特徴が出やすい。だからこそ、より地域を盛り上げられるお酒なのです」ということも話しておりました。

地域の食文化とワインの関わり

自社畑は、南三陸町の西部にある入谷地区、気仙沼市との境目にある田束山(たつがねさん)、山形県の上山と現在3カ所にあります。田束山の畑はもともと牧草地でした。

2017年に苗木100本から始まった栽培は、町内2カ所の2.3haの畑で約2800本まで拡大し、シャルドネ・ソーヴィニヨンブラン・アルバリーニョ・メルロ・カベルネソーヴィニヨン・ピノノワール・ビジュノワールの7品種を垣根仕立てで育てています。
上山では、ソーヴィニヨンブラン・メルロ・カベルネソーヴィニヨンを棚仕立てで栽培しています。

今年2月にリリースされた『南三陸シャルドネ’20』は、入谷地区の自社畑で収穫した樹齢4年のシャルドネで醸造しております。

また、田束山に植えられているソーヴィニニョンブランも非常に状態が良く、今後が楽しみな品種の一つだそうです。

スペイン原産のブドウ品種である『アルバリーニョ』にも注目しており、「スペインのリアスバイシャス地区と、この南三陸の沿岸一帯はリアス式海岸で似たような環境。アルバリーニョの栽培にも適しているはずです。辛口に仕上げ魚介類に合う味わいを目指します。」と話しておりました。

ワイナリーの理想とする味わいは、南三陸の豊富な海産物と合わせて楽しめる辛口が基本です。町の特産品と地元のワインを合わせ、新しい地域の食文化を発信しています。

海中熟成ワイン=南三陸町らしさ 

「海と山が近く食材が豊富で、新しいことに挑戦しようとする生産者がたくさんいるので、様々なアイデアが集まってきます。」

ワイナリーでは、南三陸・戸倉地区のカキの養殖棚にワインを沈めて海中熟成させる方法も行っています。『海中熟成ワイン』と呼ばれ、カキの養殖棚にワインボトルを括り付け、志津川湾の水深10mくらいの位置に半年ほど沈めておきます。
海に沈めておくことで、通常の熟成スピードよりも3倍の速さで熟成が進むそうです。

メルロから造られたワインがこの辺りに沈んでいるそうです。はっきりと原因は解明されていないのですが、『海中で音波によって伝わる振動が、ワインの良い状態を保ちつつ熟成スピードを速めているのでは?と考えられています。

カキの養殖用の網
海中熟成ワイン

“沈没船から回収されたワインが非常に良い熟成状態だった”、というニュースからインスピレーションを受けてスタートした海中熟成ワインですが、養殖棚の場所を提供する漁師さんたちもこのチャレンジを応援してくれています。

ワインボトルにロープの結びつけ方を教わったり、一緒に志津川湾にボトルを沈めるイベントを開催したりと、南三陸の新しい一面を見つけ、発信していくこともテーマだと話します。

地域と一緒に取り組む『海中熟成ワイン』という、沿岸部のワイナリーだからこそできることが、“南三陸ワイナリーらしいテロワールの表現”の一つなのだと感じました。

海の見えるワイナリーが目指す新しい町づくりとは

佐々木さんが目指すのは、このワイナリーを拠点として『新しい賑わい』をつくること。

「さまざまな産業とも連携して、地域全体を使って大きく動いていきたい。観光や買い物だけでなく、南三陸町で過ごす時間をもっと増やしてもらいたいですね。」

自社畑のブドウの収穫、海中熟成ワインを海へ沈める、地域の海産物との食のイベントなどを通して、“町をまるごと体感できるワイナリー”が南三陸ワイナリーであるとも考えています。

震災を経てこの地域と繋がった佐々木さんが、この拠点から新たな賑わいを生み出しています。南三陸町が生み出したワインをぜひ皆様も味わって、そして体感してみてください。

佐々木さん、南三陸ワイナリーの皆様、お忙しい中ありがとうございました。


南三陸ワイナリー株式会社

〒986-0733
宮城県本吉郡南三陸町志津川字旭ケ浦7-3

TEL:022-648-5519

msr-wine.com/